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WPMF世界ピン級チャンピオン 田中“暴君”藍

名取にすごい人がいる。『WPMF世界ピン級チャンピオン 田中“暴君”藍』。さてこれを見てピンとくる人は名取通。ほわっとだけどなんとなくわかる人は中級者。まさかとは思うが、全然知らないという初心者のために、まずは言葉の意味を解体してみようと思う。
「WPMF」これはWorld Professional MuayThai Federationの略称で、訳は「世界プロムエタイ連盟」となる。ムエタイはご存じだろうか。なんとなく聞いたことはあるかもしれないが発祥地はタイでタイの国技に指定されている競技だ。キックボクシングの原型ともタイ式ボクシングとも言われており、両手、両肘、両脚、両膝の八箇所を用いて相手と戦う格闘技の一種だ。このムエタイの世界王座認定団体がWPMF。
「世界ピン級チャンピオン」ここで疑問に思うのはピン級という言葉ではないだろうか。これは階級を表す言葉でムエタイの階級は男女とも体重別に細かく階級が分かれている。ピン級はそれぞれの一番軽量となる階級をさす。

「田中“暴君”藍」これは当たり前だがリングネーム。本名は田中藍(たなかあい)。女性だ。名取市在住で看護師をやっている。これら解体した言葉を再度つなげると「普段は白衣の天使の小柄な藍ちゃんがタイの国技ムエタイで世界の猛者と戦い暴君のごとくその頂点に立った」となる。しかも今年の6月に初防衛に成功。かなりやばい人のようだ。
そんな暴君に話を聞きたいとお願いすると夜にジムに来るように、とのお返事。これは…。とにかく動きやすい格好で何かあった時のために編集長にも同行してもらい暴君指定の場「PCK連闘会」へ行ってきた。

粗相があってはならないと指定時間よりも早く現場に着くと更に早く到着していた編集長に「気が散るから時間まで外で待機せよ、とのお沙汰があった」と告げられた。妙な緊張感と変な汗をかきながら待つこと15分。2階から優しそうな男性の「お待たせしました~」との声と共に子供たちが外階段を下りてきた。
「こんばんはー」「こんばんはー」「こんばんはー」
小学生と思われる子供たちが我々に元気に挨拶をしながら帰っていく。なんていい子たちなんだ。子供たちが帰ったジムにお邪魔するとそこには先程のお待たせしましたの声の主、このPCK連闘会会長の鈴木芳喜さんと暴君がいた。暴君??

確かに筋肉質な体ではあるが普通の女性だ。我々の作っている名取の情報誌『なとらじ+』やペットマガジンの『ARCHE!』を渡すと「うちにも保護猫ちゃんが2匹いるんです~」と食い入るようにページをめくってくれていた。その間会長とあいさつを交わすと会長はその大きな体をキビキビ動かしながら我々に椅子や飲み物を持ってきてくれた。なんだか思っていたのと違うぞ。
緊張を手放すことができた状態で早速「田中“暴君”藍」改め藍さんにお話を伺った。

藍さんが現在持っているタイトルは既出のWPMF世界ピン級王者と、PK-1ムエタイ世界ピン級王者、そして初代HARDCORE聖域統一ピン級王者、初代HARDCORE聖域東北ライトフライ級王者の4つだ。小柄なその体でいくつものベルトを獲得している藍さんになぜムエタイを始めたのかを伺った。
元々彼女はスポーツが大好きでフットサルをやっていたそうだ。しかし看護の仕事中に膝を脱臼し手術を余儀なくされた。術後、リハビリを兼ねてスポーツジムに通うがどうも性分に合わずもっと自分に負荷を掛けたくてキックボクシングのジムであるPCK連闘会の門をたたいた。しかし初めからキックボクシングで戦うことを目標にしていたわけではない。フィットネスの延長。ボクササイズを楽しもうと思っていた。ところが、入った所がそんな生易しいところではなかったようだ。元々藍さんは「集中して熱するタイプ」。リハビリどころか2009年にはアマチュアの試合に出場するほどになっていた。そこから更に深入りし2013年HARDCORE聖域のアマチュア大会にて見事優勝する。
このHARDCORE聖域とは、藍さんの先生であるPCK連闘会の会長鈴木芳喜さんが東北の選手育成・強化・意識改革のために立ち上げた団体である。その団体が主催の大会に藍さんは出場し見事優勝。それまでアマチュアとして活動していた藍さんはこれを機にプロに転身することになる。

プロになった藍さんだが職業はあくまで看護師。夜勤もあるハードな仕事だがその仕事以外の時間はほぼジムでトレーニングか自主トレを行っているそうだ。なぜそんなに自分を追い込むのか聞いてみると「練習を休むことイコール実力の低下につながるのではないかと思うんです」という答えが返ってきた。特に試合の前は自分に追い込みをかけるらしい。そんなストイックな藍さんをジムの仲間はもちろん、職場の仲間や患者さんたちも応援してくれている。

追い込みと言えば…藍さんの階級であるピン級は体重45.36kg以下でなければならない。さぞかし試合前の減量は大変なのだろうと思いきいてみると、「逆です。食べないともっと痩せちゃって試合に不利になるから頑張って食べるんです」。なんともうらやましいお話。いやいや、それだけ練習がハードだということなのだろう。
ここ最近はコロナの影響で試合数も減っているそうだが年間4~5回は試合に出ているという藍さん。国内に留まらず本場タイでも戦っている藍さんだが、遠征先で仲間たちと共に行動することや国内であればSAなどでちょっとした物を食べることなどがとても楽しいと教えてくれた。
「毎日仕事してそれ以外の時間はトレーニングして、の繰り返しだけどそういう日々を送っているとその分お休みの日があると最高に嬉しいですね。友達とご飯に行ったり日帰り温泉に遊びに行ったり、そんなことがとても楽しくて」。彼女から笑顔がこぼれる。
更におうちにいる保護猫のクロワッサンちゃんとココナッツちゃんの話をするときの藍さんの笑顔はとても和やかで、「猫の保護活動とか自分にはできないから微力ながら保護活動をしている方に寄付させてもらっているんです」と教えてくれた。こんなにも優しい藍さんを暴君なんていったい誰がつけたんだ!?
「キックボクシングは敷居の高いものではありません。是非みなさんにも気軽にトライしてもらいたいです。体のラインがかわりますよ」
9月11日、タイで試合が行われた。3ラウンド、KO勝ち。ますます注目される宮城県の星だ!

■PCK連闘会会長 鈴木芳喜さん
 藍さんに“暴君”とつけた張本人。藍さんからは「先生」と呼ばれており他の生徒たちからもとても慕われている。元々は自身もムエタイの選手だったが結婚を機に引退。その後結婚を控えた友人にムエタイを教え1か月でダイエットを成功させる。それがきっかけとなり体育館でのムエタイ教室を始めるが、生徒の中からプロを輩出することになりきちんとした所属クラブがないのはかわいそうだと「PCK連闘会」としてジムを構える。 
 サンドバック1つで始めたジムだったが現在までに日本チャンピオンを何人も出している。 
田中“暴君”藍さんについて 
彼女は神様からのプレゼントだと思います。自分から欲してトレーニングする姿はとても良い見本になるしブレないところが選手としても人としても素晴らしいです。いつも感謝を忘れない子で裏表がないのでとても信頼しています。自分の練習時間を割いてでも後輩の面倒を見てくれているし、誰かが試合に出るとなればボランティアで手伝いにも行ってくれる。彼女のサポートがあって、育成に集中できるのでとても助けられています。多方面からオファーがありますが、ムエタイ1本で行くという気持ちをもっているようなので今後も楽しみです。

PCK連闘会
住所(本部)
宮城県名取市手倉田字堰根457番地
TEL:022-383-2440 Mobile:090-4048-7283

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